Human Capital Management System調査
企業の従業員としても馴染みの深い人材管理ソリューション (Human Capital Management System: HCMS) について調査した。
サマリ
- HCMSは、Administration・Service Delivery・Workforce Management・Talent Managementといった業務領域をカバーするソリューションである。
- SaaS形式のソリューションを提供するリーディングベンダーとして、Workday・ADP・Ultimate Software・Ceridian・Oracle・SAPなどがある。
- 特定の業務領域に対して、画像分析などのAIやパーソナリティとチームパフォーマンスに関わる研究結果を活用したソリューションが多数存在する。
- 部分的にでもイノベーティブなソリューションを活用することで、HR業務の効率化と企業のパフォーマンス向上が可能と考えられる。
HCMS概要
Gartnerなどによれば、HCMSは主に次のような機能を提供する。アドミニストレーションは給与支払いや費用清算・福利厚生といった基本的なHR業務を支援する。サービスデリバリーは、各種ポリシーやドキュメントの管理、並びに従業員への提供を行う。ワークフォースマネージメントは給与計算の元となる勤怠管理や作業量のトラッキング、さらに人件費の予測・予算管理なども範疇とする。そして、タレントマネジメントは求人から採用・パフォーマンス管理・従業員教育・報酬デザインまでを司る。他に、ワークフォースアナリティクスという横断のレポーティング機能もある。
Administration | Service Delivery | Workforce Management | Talent Management |
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リーディングソリューションベンダー
以上の機能を備えた代表的なソリューションベンダーについてピックアップした。これらは全てSaaS形式でソリューションを提供しており、全体的な傾向として、(1) コンシューマ向けアプリのようなモダンなユーザーインターフェース、(2) 各種プロセス毎に分断されていない統合されたシステム、そして (3) ビジネス状況の変化に対応する柔軟性・拡張性が特徴と見受けられる。この他、ERPの大御所であるOracle・SAPもHCMSをSaaSで提供しておりトップベンダーとして認識されている。
Workday | ADP | Ultimate Software | Ceridian | |
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Founded | 2005 | 1949 | 1990 | 1992 |
HQ | Pleasanton, CA | Roseland, NJ | Weston, FL | Minneapolis, MN |
Revenue (2017) | $2.1 Billion | $13.3 Billion | $940.7 Million | $ 750.7 Million |
# of Employees | 8,200 | 58,000 | 5,000+ | 4,000 |
Distinctive Features |
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- Workdayは元々使いやすいERPを目指して開発されたもので、財務管理機能と統合されたHCMSとなっている。従業員の情報に基づくキャリアオプションの提示や教育の推薦、アナリティクスから特定の従業員にドリルダウンしてコンタクトしたり、ノートを他の従業員とシェアしたりといった使い勝手の良さがユニークだ。
- Workdayが中・大規模企業をターゲットとしているのに対し、ADPは小規模なビジネスまで取り込んで、特異なエコシステムを確立している。例えば、データへアクセスできるAPIとマーケットプレースを提供することで外部のアプリ開発者を取り込んだり、HR業務のアウトソースを受け付けるなど他に無い特徴を持つ。
- Ultimate Softwareは、この4社の中でもイノベーションに前向きなチェレンジャーという印象を受ける。エモーションを分析して従業員のシグナルをいち早く獲得するサーベイシステムや離職予測機能を開発・提供している。また、勤怠管理のためのモダンなパンチングマシンも提供している。
- Ceridianは過去にDayforceという会社を買収し、それが現在の主力製品となっている。(再編を繰り返して現在の形に落ち着いたように見える。) 新規従業員のスムーズなオンボーディングを可能にするプロセスや、時間管理と即座に連動した給与計算などが特徴的だ。
エマージングソリューションベンダー
統合されたHCMSと並んで興味深いのが画像分析などのAIやパーソナリティとチームパフォーマンスに関する研究結果を活用したイノベーティブなソリューションである。これらの多くは特定の問題に対してソリューションを提供するためHR業務全てをカバーするシステムとしては不十分かもしれないが、活用することによって特定箇所での業務の効率化・チームパフォーマンスの向上が期待される。
例えば、採用というプロセスを中心にそのようなソリューションをピックアップしたのが以下の表である。このような機能ごとの先進的なソリューションはタレントマネジメントの領域に多く見られ、ボトルネックとなっている業務領域に対し効果を見極めながら選択的に利用することで高いリターンが得られる可能性ある。ここに挙げた以外にも業務領域に応じて多数のソリューションが存在するので、まずは問題を特定する必要がある。
Process | Provider | Summary |
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Hiring | Wonderkind | 採用案内をどのインターネット上のどのメディアに投稿するのがベストかを選定する。 |
Broadbean | 多数のジョブボードやソーシャルメディアと連携して採用を効率的に行い、投資対効果のモニタリングを可能にする。 | |
Textkernel | 自然言語処理を利用して仕事と候補者のマッチングを行う。 | |
Belong | ソーシャルメディアの情報などから最適な候補者を予め選出することで効率の良い採用活動を可能にする。 | |
Talview | ビッグファイブと呼ばれる性格診断を用いて候補者と現存するチームとのフィットを算出する。 | |
Harver | 性格・言語能力などをアセスメントするツールを提供する。 | |
HireVue | ビデオインタビューの映像を解析し、採用業務の効率化と候補者の自動評価を行う。 | |
Koru | 候補者の7つのスキルを分析し、候補者の自動評価を行う。 | |
Compensation | Achievers | 満足度・生産性を高める従業員の認知度向上プログラムを提供する。 |
Career | Clustree | AIによるキャリアコーチングを提供する。 |
Performance | Impraise | 360度評価やリアルタイム・フィードバックを可能にする。 |
所感
シリコンバレーのあるHR担当VPによれば、HRはイノベーションが少ない領域となっているという。急成長する企業のディマンドに追われたり国ごとに異なる複雑な法規に対応することがフォーカスとなっており、データの活用やチームワークの研究をフィードバックするというアクティブな貢献を模索するまでに至っていないのかもしれない。一つにはそのような施策の効果の不確かさもあると思われる。
しかし、HCMSなどを活用してデータを収集・可視化するのはもちろんのこと、エマージングソリューションの項で触れたようなシステムを活用することで、イノベーションを実現する可能性が大きい分野であると考えられる。HRに関するイノベーションについて、参考となる記事をいくつか以下に挙げる。
- 5 Examples of Successful HR Innovation
- 2017 HR Innovations & Trends
- Network Analytics on HR Data: A Practical Perspective and 3 Case Studies
また、少し古いがパーソナリティとチームパフォーマンスについては以下の研究が良い導入となるだろう。PDFはこちらから入手できる。(特に民間ではMBTIがよく知られているかもしれないが、経営学の分野ではBig 5 Personality Traitsがよく用いられているようである。)
“Personality and Team Performance: A Meta-Analysis”, MIRANDA A. G. PEETERS, HARRIE F. J. M. VAN TUIJL, CHRISTEL G. RUTTE and ISABELLE M. M. J. REYMEN, European Journal of Personality, 20: 377–396 (2006)
多様な世代・人材が混在する環境で、人々のフィットを分析し収益性に繋げる動きがあるのは歓迎すべき傾向である。さらに、刻一刻と変わっていくビジネス環境に対し、統一されたシステムで柔軟に対応できることも望ましい。人材もそれを支えるシステムも多様性に対応し、価値を生み出していくことが必要だ。このようなソリューションの調査・評価・トライアル・インプリメンテーションについて関心があればぜひ下記よりご連絡ください。
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