Asset Tracking Solution調査

航空機向けUnit Load Device (ULD)を対象として、これを空港のような広範囲 (主として屋外) でトラッキングできるソリューションについて調査した。

サマリ

  • タグやネットワークが利用可能であるという前提に立てば、SigfoxによるGlobal Navigation Satellite System (GNSS) を使わないジオロケーションサービスがコスト・カバレッジ・電池寿命共にベストであると考えられる。しかし、現状ではタグ・ネットワーク共に国内で利用可能かどうか、不透明である。
  • 次に期待がかかるのは、GNSSとSigfoxまたはNB-IoT/LTE-Mの組み合わせである。これらはタグの初期費用のインパクトが大きいが、通信費・ストーレッジ・データアクセス費用は初期費に比較してかなり小さい。懸念は、GNSSを頻繁に利用するとバッテリーの寿命が短くなることと、有望な海外ベンダー製タグの日本での利用可能性である。
  • 今後は、タグベンダーと国内通信事業者をつなぎ、国内対応させること、あるいは有望なタグの国内開発が必要となる。そして、ダウンリンクのみで起動するコンフィグを徹底し、航空機搭載要件と電池寿命の懸念をクリアすることが重要だ。
  • 同じタグを屋内や海外で利用できるようにすることでエアラインへの提供価値を向上したり、位置情報をパッセンジャーに展開することで、ソリューションのさらなる価値向上を検討したりすることが期待される。

ULD

航空機のULDは航空機に荷物を積み込む際のコンテナで、その大きさなどからLD3・LD6・LD11・M1・PMC・PAGなどのタイプがあり、最も広く用いられているのはLD3と呼ばれるものである。ULDの価格は最も安い物でも$1,000前後、ハイグレードの物で$5,000前後と見られ、IATAは修理や紛失によって年間370億円の損失があると見込んでいる。

ULDはその数量や使われる場所柄、どこに何個あるか管理することが課題となる。例えば、紛失したULDを成田空港の敷地内で探すとなると、相当な時間を消費するであろうことは想像に難くない。整備士の労力やそれによる遅延などを考慮すると、ULDを管理するソリューションはエアラインにとって一定の価値があると考えられる。

ソリューションベンダー

ULDのトラッキングという観点で調査を行うと、ULD自体と貨物を対象とした2つのカテゴリが見えてくる。一方、純粋にトラッキングソリューションとして考えてみた場合は、GNSSの他にもLow Power Wide Area Network (LPWAN) を用いた方法や、短距離ではWiFi・Bluetooth・UWB・Zigbee・RFIDなど多数の技術がある。ここでは、今回のユースケースに合致する可能性があり、IoTの発展と共に期待のかかるLPWANを用いたソリューションについて3つ目のカテゴリとして追加する。

ULDトラッキングソリューション

以下はULDトラッキングに特化したソリューションベンダーであるが、空港に点在するULDを任意のタイミングでトラッキングできるようにはなっていない。

最も近いものとして、ACL AirshopのCore Insightは、BluetoothビーコンをULDに取り付け、リーダーで読むことでLast Point Readを得ることができる。タグがパッシブとなることで航空機に搭載可能である。しかし、このようなのソリューションは任意の時刻にULDのロケーションを特定できる保証が無い。

ACL AirshopはテクノロジープロバイダーであるCore Technologiesと組んでいる。他には、Telairはカーゴがリーダーを搭載して、入ってきたULDの情報を読み取ることと、カーゴの位置を示すGPSを組み合わせているようだ。Air DispatchとIBSは情報管理システムで、入ってきた位置情報をデータベース登録するシステムを提供している。

貨物トラッキングソリューション

以下はエアカーゴ向けのトラッキングデバイスを提供しているベンダーで、価格および充電の必要性を気にしなければ、ほぼリアルタイムにトラッキングが可能である。

位置測定技術はGPSであり、トラッキングが必要な高価な貨物を対象として、豊富なセンサ類、SIMカードを搭載している。フライト中に電波を発しないモードに自動的に切り替わることで航空機に搭載可能だ。各社共に数十社というエアラインから承認されて販売している。

単価は数百ドルとなるので、無数のULDを管理するには初期費用がかかる。さらに、データのアクセスにサブスクリプションが必要となるのでランニングコストもかかってくると考えられる。また、GPSを利用することで、フライト毎の充電を前提とするようなバッテリーライフとなっている。

OnAssetはAT&Tのパートナーであり、また同名の製品が売られていることから、Sensitechとも関係があるものと思われる。また、SenseAwareはFedEx関連の会社だが、SendumとMoogのタグを自社ブランドとして販売しているようである。

LPWAN活用トラッキングソリューション

価格・カバレッジ・電池寿命で期待がかかるのがLow Power Wide Area Network (LPWAN) を活用する新しいベンダーたちだ。これらは位置情報の取得をLPWANまたはGNSSとの組み合わせで行っており、省電力・長距離通信・安価などの特徴から、任意のタイミングでのトラッキングが可能であると考えられる。

ただし注意点として、日本の周波数帯に対応している製品は少ないため、モディフィケーションのためのコストがかかる可能性が高い。これまでのソリューションと比較しては安価であるものの、全体としてタグの価格がまだ高いことや、開発中のデバイスが散見されるなど、定着していない印象を受ける。

Tracktioはスペインの会社で、空港・エアラインとのビジネスの実績もある。GridLocateはイギリスの会社で、Zane Systemsというハンガリーの会社にタグの製造を委託しているようである。Digital Matterはそのラインナップの一部にu-bloxの製品を利用してGNSSとLPWANを組み合わせたソリューションを提供している。

ベンダー選定のヒント

ソリューションを選定する際には、以下のような項目を比較検討すると良いだろう。

カバレッジ

ULDが移動する可能性のあるエリアを網羅できるかどうか。例:

  • GNSSを用いた位置測定の場合、基本的に全世界で測定ができる。屋内利用の場合は別の方法を取り入れることが必要だ。
  • LPWANによる位置測定は空港のような広大な土地での位置測定に向いているし、ゲートウェイを置くことで電波の届きにくい屋内でも連続して位置特定ができる一方、海外での利用については不透明である。
寸法

ULDの運用を邪魔せず、堅牢なハードウェアとなっているかどうか。例:

  • Core Insightで用いられているタグはULDの外側に付けるように指示があり、大きさはL 102.5 x W 44.8 x H 17 mmとなっている。
  • これに対し、YabbyやzTrackのタグは高さがあるので表面に貼り付ける際は出っ張りが問題とならないか検討が要るだろう。
航空機搭載

パッシブであること、または飛行中にオフになることが示されるかどうか。例:

  • Core Insightは、タグがリーダーのレンジに入らない限り自分から電波を発しないことで、電波要件をクリアしているように思われる。
  • OnAssetはそのウェブサイト上で、エアラインに対し必要な承認プロセスを無償でサポートする旨を明記している。
データアクセス

APIやデータインテグレーションサービスの有無、またはその可能性にがあるかどうか。例:

  • LPWANを採用するベンダーの多くはAPIで収集されたデータへのアクセス方法を提供している。
  • IoT向けネットワークを提供する国内通信事業者も、データのストア・アクセス方法の提供を行っている。
電池寿命

必要な通信頻度を確保しつつ、一定期間以上のバッテリーライフを保てるかどうか。例:

  • GNSSを利用するソリューションは、公称バッテリーライフは1日1回の通信となっていることが多いので注意が必要である。
  • 任意のタイミングでのトラッキングとするために、ダウンリンクで要求があってから位置情報を報告することが推奨される。
オーナーシップコスト

費用対効果が認められるコストとなっているか。例:

  • ゲートウェイを用意する必要のあるLPWANでは、ゲートウェイからの通信費用もかかることに注意が必要だ。
  • デバイス毎に数ドルを課金されるようなデータアクセス費用は、ULDの数が多くなった際に重荷になる。

所感

広範囲に及ぶ資産のトラッキングを安価に長期間行うことはこれまで難しかったが、IoTのための技術の発展で、それが可能になりつつあるようである。トラッキングは、アセットのIDや座標など限られた情報を頻繁に送るので、IoTの概念に合致する。省電力・小パケット・長寿命・安価を兼ね備えたIoT技術で、ULDなど空港設備管理の効率化が期待される。

LPWANはまだ比較的若い技術であり、今後さらなるベンダーの出現や仕様変更の可能性もあるかもしれない。調べた限りでも、特定の地域に限定してビジネスをしている企業がまだ多く、このような用途での日本での導入はこれからといった感じだ。紹介したベンダーの中でも、日本展開に追加コストがかかる可能性が大きい。

IoTは安価と言われているが、発展途上であることがまだ高いタグ単価やデータアクセス費用に反映されているように感じる。Sigfoxのようにネットワークやストレージを一括提供することで非常に安い通信コストを実現し、タグとアプリさえ手配すれば完了するシステムが良さそうだ。その際も、なるべくGNSSを使わず簡単な機構とすることで電池寿命を伸ばし、管理の煩雑さを減らせると尚良い。

 

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